設計のご相談に来られる方の多くは、もうすでにご家族と話し合い、実家をどうするか、前向きに考える準備を整えた方たちです。
でも私は、その少し手前にある時間——「話し出すまでの迷い」や「うまく伝わらなかった言葉」にも、実はとても大切なものが詰まっていると思うのです。
今回は、そんな「最初のひとこと」に向き合うお話をしてみたいと思います。
「実家のことを、急に言い出してどうしたの?」
ある日、帰省のタイミングで、なんとなく気になっていたことを口に出してみる。
「この家、これからどうするんだろうね」
すると返ってきたのは、思ったよりあっさりとした反応。
「え、なんで急にそんなこと言い出すの?」
「別に今は困ってないし、まだ親も元気だしさ」
そんなふうに言われて、ちょっと拍子抜けしたり、寂しい気持ちになった経験がある方もいるかもしれません。
自分の中では、ずっと前から考えていたのに
口に出したのは「突然」でも、
考え始めたのは、きっともっと前だったはずです。
- 雨漏りしていると聞いたとき
- 帰省のたびに、部屋が少しずつ古びていくのを感じたとき
- 親の体力が落ちたなと思ったとき
そんな、ちいさな「きっかけ」が重なって、「そろそろ考えないといけないのでは」と感じるようになった。
でもそれを言葉にして、誰かに伝えるというのは、なかなか難しいものです。
とくに家族相手だと、感情も過去も積み重なっているから、なおさら。
言葉にならない気持ちを、少しずつ
「どうして急に言い出したの?」という言葉の裏には、
相手の戸惑いや驚き、あるいは「まだ現実を見たくない」という気持ちが隠れていることもあります。
そんなときこそ、伝え方を少し工夫してみるのもひとつの方法です。
たとえばこんなふうに:
- 「最近、近所で空き家の話を聞いて…うちも他人事じゃないなって思って」
- 「この前、ここの屋根が傷んでるって親から聞いて、ちょっと気になってた」
- 「この家、なんとなくそのままにはできないなと思って」
こうして、自分の中の“気になる気持ち”をゆっくり共有することから、対話は始まります。
その一言が、家族の時間を動かしはじめる
私たちが設計のご相談をいただくときには、
すでに家族のあいだで「実家をどうするか」がある程度話し合われ、方針が決まっていることが多いです。
けれど、そこに至るまでには、
きっと「話すかどうか迷った時間」や「想いがすれ違った瞬間」もあったのではないかと思うのです。
設計の仕事をしていて感じるのは、
リノベーションの“前”にある、こうしたやりとりの時間こそが、
家族にとって本当の意味での「再生」の始まりなのかもしれないということです。
いま、誰に何を話してみたいですか?
実家のことを考えはじめたとき、
すぐに答えが出なくてもいいと思います。
大切なのは、気になった自分の気持ちを信じてみること。
そして、誰かに伝えてみること。
たとえ「急にどうしたの?」と言われても、
その一言がきっかけになって、少しずつ家族の時間が動いていくかもしれません。
実家のことは、住まいの話でもあり、家族の話でもあります。
「実家、どうしようか」——そう思ったときは、
その気持ちを、そっと誰かと分かち合ってみてくださいね。
※この記事は、設計のご相談をされるよりも前の、「実家について考えはじめた方」に向けて書いています。
もしこの記事が、誰かと話すきっかけになれば嬉しく思います。